育ち過ぎた大きなカブを目の前にして、おじいさんは「アカン、これ、絶対一人じゃ無理や…」と呟いたあとすぐにおばあさんを呼んだ。
おばあさんを呼んで一緒に引っ張り、抜けなかったので今度は孫を呼んで一緒に引っ張った。
それでもカブは抜けなかった。
「ちょっと僕、アイツら呼んでくるわ!」
孫はそう言って誰かを呼びに行った。
おじいさんは「へぇー、協力してくれる仲間おるんや… へぇー…」とおばあさんに言った。おばあさんも嬉しそうに「そうみたいですね」と笑った。
少しして、孫は犬を連れて来た。
おじいさんは心の中で「犬ッ!」と突っ込んで、「(まぁええわ)とにかく引っ張ろッ」と言って引っ張った。
抜けない。
「こっち、こっち!」と孫がその場で誰かを呼んだ。呼んだ先には猫がいた。
「猫ッ!犬の次は猫ッ!コイツ、人間に仲間おらんのかいッ!?」
と小声で言いながらおばあさんの方を見た。おばあさんは黒目だけになって、ただただ前を向いていた。
おじいさんは気を取り直して「(近所の人が来ないうちに)とにかく引っ張ろッ」と言い、みんなで引っ張った。
まだ抜けない。
「僕、もうちょっと仲間呼んでくるわ!」
と言い残し、犬と猫を置いて走って行った。
「パターン的にネズミやな… それ以外ないやろ…」
おじいさんはそう言いながらおばあさんの方を見た。おばあさんは黒目のままで、黙って前を向いていた。
しばらくすると「おーい!連れて来たよー!」と叫ぶ孫の声が聞こえて来た。
息を切らせて走って来る孫。その後ろにはネズミ。しかも80匹の大群。
「大群のパターンッ!」
おじいさんはそう叫んだ後、「このままやったらコイツ、何を連れて来るか分からんから、もうここらで終わらさなアカン…」と呟いて、
「さぁ、みんな!うんとこしょー、どっこいしょー!の掛け声で引っ張ろかーッ!」
と気合いを入れた。
声を合わせて引っ張った。
「うんとこしょー、どっこいしょー!」とみんなで叫ぶうちに、みんなが一つになっていく気がした。
おじいさんはもちろん、黒目だったおばあさんも、孫も、犬も、猫も、ネズミ80匹も、同じ気持ちだった。
何回目かの掛け声の後、大きなカブはスッポリ抜けた。
「ありがとう、みんな!みんなのおかげや、ホンマにありがとう!」
おじいさんは言った。言ったあと、続けて、
「せやけど何で手伝ってくれたん?マジで嬉しいねんけど。」
と大きなカブの茎の周りに座るみんなに向かって言うと、80匹のネズミの内の1匹が、
「おじいさんの孫がな、いつも俺らの話し聞いてくれたり、相談に乗ってくれたりするねん。みんなもそうちゃうかな?」
と言った。他のネズミ79匹も、犬も猫もうんうんと頷いている。
嬉しくなったおじいさんは、
「そうか、やっぱりコミュニケーションって大切やな。」
と言うと、
「そらそうやん。信頼関係を築こうと思ったら、それしかなくない?信頼関係って、一番大事やろ?建物の基礎みたいなもんやろ?それが無いのに、何も積み上げられへんもんな。おばあさんもそうちゃうかな?おじいさんのこと、信頼してるんちゃうかな?孫も信頼してるから、おじいさんの言うことを聞いたんちゃうかな?この大きなカブも、信頼関係で抜けたみたいなもんちゃうかな?」
ネズミはそう言いながらおじいさんに向かってウインクをした。
おじいさんは背中に流れる汗を感じながら「信頼関係か…」と心の中でつぶやき、手伝ってくれた動物たちを見送った。
すべての動物を見送った後、おじいさんは孫に言った。
「今日はありがとう。それにしてもお前、人間の仲間はおらんのか?」
孫は振り向きながら、
「おるよ。でも近くにいるのはアイツら。近くに仲間がいるのに、わざわざ遠くの仲間を頼る必要ないやん。ちがう?」
と言った。
おじいさんは、なぜか少し恥ずかしくなって、おばあさんに「カブは漬物にしようか?」と言った。
おばあさんは「そうですね、そうしましょう」と言って、笑った。