僕の奥さんと、3人の娘たちがお世話になっている美容師は、僕が店長時代のアルバイトスタッフだ。
ひょんな繋がりから、もう何年も我が家の女性陣の髪を整え続け、それぞれが個人的にやり取りをし、仕事やファッション、恋や部活の相談などをするような関係になっている。
美容師の彼女は、幾度となく店長時代の僕の話をそれぞれとしているみたいで、自分ではすっかり忘れてしまったような話しを子どもから逆輸入されたりして、少し恥ずかしいような気持ちになったりする。
出逢いは不思議だ。
あの日のアルバイトスタッフが、時を経て数年後、僕の家族に大きな影響を与える存在になるなんて。
そんな美容師の彼女の名前を、家の中で耳にする度に思う。
「あの日、出逢えて良かった」と。
出逢いも別れも、その間にあるたくさんの出来事も、全部が『点』でしかない。
『点』でしかないけれど、その『点』は、刻み続けることで結ばれ、いつか『線』と呼ばれるようになる。
「出逢えて良かった」は、今、じゃなく、その『線』を感じた時に抱く気持ちなんだろう。
たくさんのアルバイトスタッフがお店を巣立つ季節になった。
巣立っていくスタッフたちが、これからどんな『点』を刻んでいくのかは分からない。
だけれど、その『点』はいつか、きっと、誰かや何かと繋がる『線』になるはず。
アルバイトスタッフだったあの日の彼女に、僕が贈りたいような気持ちを、みんなもいつか抱き、抱かれる日が来るだろう。
そんな気持ちは、やって来たその時に、届ければいい。
『点』を刻み続ければ、いつかきっと『線』になる。
今年も桜は咲き、そして散る。
終わりに見えるそれは、何かのスタート地点でもある。