やたらと説明が長い店がある。
席についた瞬間から演説が始まり、もう何度もその演説をしているものだから、やたらと早口で、コチラが口を挟む間さえ与えない。
「天丼が食べたい・・・」
とあらかじめ決めて入ったのに、天丼が食べたかっただけなのに、日替わり定食の一品があーだとか、ご飯のお代わりがどーだとか、コーヒーが無料でこーだとか、更にはアンケートでプレゼントが当たるや当たらない等の演説を一通り聞かされるお店。
僕は天丼が食べたい。
だけれどそんな演説を聞かされた後に、演説には全く出てこなかった天丼を間髪いれずに注文する勇気が僕にはない。なので渇いてもいない喉をお茶で潤しつつ、全然耳に入ってこなかった演説を振り返っているフリをし、ある程度時間を稼いでから
「すいません、天丼を一つ・・・」
と注文する。
店に入ってから既に8分以上経過している。
「ねーちゃん、天丼一つくれや!」
と言えたなら、僕の前にはもう天丼が到着しているかもしれない。
「ハイ、天丼ですね☆ それではご注文を繰り返します!天丼お一つ。 以上でよろしいでしょうか?」
繰り返さないで、お願いだから。
僕が一人で天丼を3つ食べるように見えたのなら謝るから。
心の中でそう呟きながら、
「はい・・・」
と小さく答える。
「食後にドリンクなどはいかがですか?プラス100円でお付けできますが?」
とにかく今は天丼が欲しい。
食後なんて、そんな未来の事はいいんだ!!
お願い、早く天丼を!!
と心の中で叫びながら
「結構です・・・」
とボソッと答える。
お店側は『親切で丁寧』の為に、いろいろな説明を事前にしてくれているのだろう。
過去に事前説明を怠った際、注文間違いなどで何らかの問題が発生した事があるのだろう。
そんな事やあんな事があるのだろうが、このわずらわしさはいったい何なのか?
『お客様の為を思い』が、お店の都合に包まれ、早口の演説、臨機応変さの欠落を生み、結局誰の為にもなっていないオペレーションを発生させている。
本来接客は、
『このお客様は、どういうお客様なのか?』
をまず知る事から始まる。
全てのお客様が細かい説明を望んでいる訳ではない。
『どういうお客様なのか?』
を知るための行動はたった一つ。
『質問』だ。
一つの質問で、説明不要、説明必要を判断すればいい。
一つの説明で細かい説明、大まかな説明を判断すればいい。
情報を得ようとしないで、情報をとにかく発信しようとするオペレーション自体が、もう既にお店都合以外の何モノでも無いという事に気づいて欲しい。
居心地の判断は、イスがフワフワ、テーブルがピカピカ、スタッフがニコニコ、そんなものだけではない。
「天丼くださいな!」
と、僕はすんなり言いたい系なのだ。