マッチョさんの剃刀

飲食店で働くすべての人が「この仕事を選んで良かった!」と心から思えるように。

17年前

 「はい、そしたらみんなで声を掛け合って、3名のグループになって下さーい!」


 子供の頃からそういう状況が苦手だった。



 「俺と同じグループにならないか?イエイ?」



 死んでもそんな事は言えない。 ルフィが羨ましい。 言えないからモジモジし、「誰か誘って下さい」と心の中で願う。 だけれどモジモジし過ぎて誰も誘ってくれない。 そしてアブレル。



 「まだグループになっていない人いますかー?」



 というアブレ者の炙りだし作業をしたがる主催者の掛け声に、惨めな気持ちで手を上げる。 



 いち早くグループになっている人たちの目線、グループになった安心感でテンションが上がっている人たちの声、それらが合わさり、僕の頭上にだけいつも現れる雨雲となる。 帰りたい。 そっと帰った事も何度かある。 



 
 そんな社交性の欠片もない僕が、“対人力”をとことん要求されるサービス業界に従事して、もう17年になる。 




 17年前、始めて働くことになったお店の先輩社員にあだ名を付けられた。 



 みんながあだ名を気に入り、面白がってそのあだ名で名札を作られ、社長までもが僕をあだ名で呼ぶようになり、僕の本名なんて僕しか知らない状況になった。



 一日に200人以上の若いお客様が来店される繁盛店だったおかげもあり、瞬く間にあだ名の僕が浸透し、街中の人が僕を見つけてはあだ名で声をかけてくれるようになった。




 あだ名という武器を手に入れた。




 あだ名の自分でいる時は、積極的になれた。 ガンガン前に行き、



 「俺と同じグループにならないか?イエイ?」



 なんて平気で言える人になれた。




 オカンにだけ偉そうに言える中学生のように、僕をあだ名で呼ぶ人たちの前ではガンガン行けた。 




 溺れかけている僕が偶然掴んだ流木は、とてつもない浮力で僕を運んでくれた。




 あの日、先輩社員が面白がって僕にあだ名を付けてくれなければ、僕はどうなっていたのだろうと時々思うことがある。




 なんのことはないその日の事が、人の人生にとってとてつもない大きなきっかけになるかもしれない。 良いにしても悪いにしても。




 なんの脈絡もなくツラツラ書いた。


 
 偶然なのかなんなのか、17年前の今日この日に、僕はとてつもない浮力の流木を手に入れた。


 
 
 「へー、ガッチリしてるねぇ・・・ マッチョさん!マッチョさんって呼ぶわッ!」


 
 
 懐かしいな。



 



 

  

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