クリスマスが近づくと、僕は、
「デモッソ・ノッ・トッ・シーノ」というフレーズを思い出し、毎年のように「そうだ、そうだ」と独りごちる年末を何年も過ごしている。
このフレーズは、2008年に発売された糸井重里さんの著書〔小さいことば〕シリーズの第二弾『思い出したら、思い出になった。』の中で、『赤鼻のトナカイ』という曲の歌詞について、
「鼻が赤いからとバカにされていたトナカイさんが、サンタのおじさんに運命を変えられる直前の、【転換の合図】になる一行なんです。それが「デモッソ・ノッ・トッ・シーノ」です。なんか、魔法のおまじないみたいなんですよねぇ。」
と糸井さんは書かれていて、読んだ瞬間からひそかにそれを唄い、妙に納得してしまったことを、10年以上も経った今でも覚えている。
大勢の人に認められていないこと。
大勢の人がマイナスだと思っているようなこと。
大勢の人が見えていないこと。
自分自身もそう思ってしまっていること。…
もしかするとそれは、周りに流されていたり、見えていなかったり、見ようとしていなかったりしているだけかもしれない。
天台宗を開いた伝教大師最澄が書いた『山家学生式』(さんげがくしょうしき)の冒頭に、「一隅(いちぐう)を照らす」という言葉が出て来る。
一隅とは、みんなが気づいていないほんの片隅のこと。
サンタクロースと伝教大師最澄を重ねる人はそういないだろうけれど、僕には、『赤鼻のトナカイ』の歌詞に出て来るサンタのおじさんと重なって仕方がない。
真っ赤なお鼻の
トナカイさんは
いつもみんなの
わらいもの
でもその年の
クリスマスの日
サンタのおじさんは
いいました
暗い夜道は
ぴかぴかの
おまえの鼻が
役に立つのさ…
トナカイが活躍するきっかけは、サンタクロースの「一隅(いちぐう)を照らす」言葉のおかげ。
「デモッソ・ノッ・トッ・シーノ」
ほら、もう、変われたかもしれない。