むかしむかしあるところに、新しい洋服が大好きだと民衆に思わせているつもりの王様がいました。
王様は洋服を仕立てても、すぐにまた新しい洋服を仕立てるという毎日を送っていました。
そうすることで、街の経済が活性化するからです。
民衆もそれを分かっているので、王様の事が大好きでした。
ある時、王様の下へ2人の仕立て屋がやってきました。
仕立て屋は、
「わたしたちは、愚か者やバカには見えない不思議な布地を織ることができるんですよ、エヘヘヘッ」
と言いました。
本当はそんな布地は存在しません。
それを聞いた王様は、
「アホか、コイツら… まぁ、いい機会やから、コイツらの話しに乗っかってみたろ。」
と思い、大喜びで洋服を注文しました。
しばらくして、王様が洋服の出来栄えを確認するために仕立て屋の元へ行くと、案の定、目には見えない布地を持って、仕立て屋はニヤニヤしていました。
王様は、「コイツら、ホンマか…」とうろたえましたが、「まぁ、えーわ」と見えない布地を褒め、乗っかり続けました。
家来たちも、王様の言う通りに顔を引きつらせながら布地を褒めました。
王様は見えもしない布地で作られた衣装を着て、パレードに出ました。
それを見た見物人たちは、一瞬焦りましたが、すぐさま「このパターンね…」と理解し、王様の衣装を褒めまくりました。
しかし、見物人の中にいた小さな男の子が
「王様は裸だよ!」
と空気を読まずに叫びました。
それを聞いた一人の大人が、
「アホかお前は!そんなもん見たらわかるわッ!王様はな、俺らがフィクションを受け入れる余裕があるかどうかを試しとんねん!」
と言いながら、少年の頭を一発はたきました。
その声は、王様には届いていない様子です。
はたかれてキョトンとしている少年に、また別の大人が、
「リアルを叫ぶのは間違いではないけれど、それだけが正しい訳では無いんやで。興じる事の大切さを、王様は教えてくれとんのやで…」
そう言って、少年の頭を撫でました。
王様は裸にマント、グンゼの白パンツにステッキを持った姿で見物人に手を振りながら心の中で、
「しかしワシ、なんちゅう格好で歩いとんのやろ…まぁ、みんながこの遊びに乗っかってくれたから良かったけど、ギリギリやがなコレ…。」
と呟きながら、裸のまま歩き続けました。
少年は、その後姿をみて、「なんか知らんけど、カッコいいな」と思いました。
めでたしめでたし。