体中が痛い。
長い間、眠っていたような気がする。
ゆっくりと目を開けると、若者とイヌが、心配そうに、ぼくの顔を覗いていた。
「心配したよ。目が覚めたんだね、良かった。」
若者はそう言うと、ぼくの側に、水の入った竹筒を置いてくれた。
彼らのことは知っていた。
桃のマークが付いた鉢巻をして、〔日本一〕と書いたのぼりを背負い、胸を張って歩いていた、クレージーな若者と、イヌ。
すれ違う人が彼らを見て、薄笑いを浮かべるのを、木の上から何度も見た。
ぼくも、そうだった。
そんな彼らのことが気になり、後を追いかけている最中に、うっかり木から落ちてしまった。彼らは、気を失っているぼくを見つけ、介抱してくれていた。
焚火の側で、うつらうつらしながら、木に立てかけてあるのぼりを、ボンヤリと眺めていた。
若者は、そんなぼくに気が付いて、
「あののぼりかい?あれがあるから、ぼくは堂々としていられるんだよ。」
と、言ってきた。
「〔日本一〕を背負って、下を向いて歩く訳にはいかないよ。だから、出発する前に、おじいさんに書いてもらったんだ。」
そう言いながら、ぼくの口に、柔らかい団子を一つ入れてくれた。
「おばあさんは、「圧倒的に美味しい団子を作るよ!」と言って、この団子を作ってくれたんだ。美味しいだろ?そういうことなんだ。そう在りたいなら、そう在るように、記しておくのが一番さ。」
その時、なぜだかぼくも、その、在り方の側に居たいと思った。
あの日から数日が経ち、ぼくは、彼らと一緒に、歩いている。
胸を張って、歩いている。
〔日本一〕と書いたのぼりを背負うのは、ぼくの役目になった。…
目標とは少し違う、【在り方】という、自分の、自分たちの観点。
【在り方】は、単純明快な方が良い。
目に付く場所に、それがあれば、あちこちに行ってしまいそうな自分を、そう決めたあの日に、引き戻してくれる。
単純明快な【在り方】を記そう。