桃のマークが付いた鉢巻をして、〔日本一〕と書いたのぼりを背負い、胸を張って歩いてくる、クレージーな若者とすれ違った。
「なんちゅう格好で歩いとんねん・・・」
と、驚いたものの、なんとなく興味を持ってしまい、コッソリと後を追いかけた。
クレージーな若者は、あちこちで「鬼退治に行く!」と吹聴している。
「アカン、コイツ完全に危ないヤツやがな・・・」
そう思って立ち去ろうとすると、グルルルッっと、お腹が鳴った。そう言えば、ずいぶん前から何も食べていない。
遠くにいるにも関わらず、お腹の音に気付いたクレージーな若者は、腰に付けた巾着袋を指さし、「一緒にコレ食べる?」と大きな声で言ってきた。
この瞬間、なぜだか分らないが、クレージーなコイツと、一緒の夢を追いかける気がした。お腹が空き過ぎて、幻覚を見ただけかもしれないが。
ぼくは、彼の隣に座り、一緒に団子を頬張った。
食べながら、彼は、ぼくに、自分が巨大な桃から産まれ、老夫婦に育てられたことや、鬼退治が夢であること、その理由などを話した。
アホかと思った。
でも、羨ましかった。
彼は、本気だった。
話しを聞いているだけで、彼が本気だということが、ガンガン胸に突き刺さった。
「君と、一緒に行きたいな。」
喋れるなら、きっとそう言っていたと思う。
ぼくは、黙って彼の横顔を見ていた。
竹筒に入った水を飲み終えると、彼は、ぼくの心の声が届いたかのように、
「一緒に行こう!」
と、言った。
なぜか涙が出た。
ぼくは、自分でも驚くほど大きな声で、「ワンッ!」と叫んだ。
彼は、ぼくの頭を撫でて、「さぁ行こう!」と立ち上がった…
変人とイヌ。
リーダーと、賛同者。
「どうついていけばいいのか?」を示してくれたあのイヌが、クレージーな若者を、リーダーに変えた。
「最初の賛同者にどう接するか?」は、リーダーになるための、一番最初の問いかけ。
サルとキジが加わる、まだ少し、前の話。