大きいことを表す【ジャンボ】という言葉は、実在した象の名前が由来だ。
ジャンボは、オスのアフリカ象で、フランス領スーダン(現:マリ共和国)で生まれ、フランス・パリの動物園を経て、イギリス・ロンドンの動物園に移り、その動物園で、人を乗せる実演を行うことで人気者になった。
〔ジャンボ〕という名前は、動物園の飼育係が、スワヒリ語で「こんにちは」を意味する「jambo」からとったものらしい。
人気者のジャンボはサーカス団に移籍し、そこで『地球上で最も大きな四本足の動物』と宣伝されたことから、【ジャンボ】という言葉が【大きい】という意味を持つようになっていった。
そのサーカス団でも一番の人気者だったジャンボは、突然の死を迎える。
機関車に乗り、次の街へ移動する時に同じサーカス団の若い象が暴れ出し、反対側の線路に飛び出した。そこへ走って来た機関車と衝突しそうになった瞬間、ジャンボはその若い象を突き飛ばし、自分がその機関車と衝突し、非業の死を遂げた。
勇敢で人気者のジャンボの死を悼み、ジャンボにまつわる多くの物語が、多くの人たちによって語られ、現在もその場所に、ジャンボの実物大の像が建っている。…
20歳代前半で僕は、未経験で飲食業界に飛び込んだ。
働いていた超繁盛店のそのお店で認められ、店長を任せられるようになった頃、一人の背の高い若者と出会った。
面接にやって来た専門学校に通う彼を、僕は一目見て気に入り、「背が大きいからジャンボでいこう!」という何のひねりもないあだ名を付け、名札にマジックで〔ジャンボ〕と書いて渡した。
気に入ったのは僕だけでは無かったようで、ジャンボはそのお店であっという間に一番の人気者になった。
彼が休みの日は多くのお客様が残念がり、「ジャンボのシフトを教えてほしい!」と言って帰って行った。
僕は、彼と一緒に働くのが好きだった。
人を笑顔にさせる魅力が、彼にはあった。
あの日から30年近い時間が過ぎ、〔ジャンボ〕というあだ名から、本名の〔こうぞう〕に呼び方を変えて随分経つのに、白のコック服を着てホールを走り回り、あちこちでお客様を笑顔にさせているジャンボの姿が鮮明に浮かぶ。
2年前、「余命宣告を受けた」と連絡があった。
癌だった。
少しでも彼を元気づけようと思い、食事に誘った。
待ち合わせたお店で彼は「これ、絶対に似合うと思って」と、僕の首にストールを巻いてくれた。
元気づけようと思った僕が、逆に元気をもらった。
「俺、コレが似合うような人になって、これを巻いてテレビに出て、「アレ、俺がプレゼントしたやつやねん!」って周りの人に自慢できるように、頑張るからな!」
そんな約束をして、グラスを合わせた。
それから2年後の昨日、彼は、僕のまだ知らない世界へ旅立った。
旅立つ少し前のある日、もしかすると、もう最後になるかもしれないと不意に思い、LINEでメッセージを送った。
20分後に届いたそれは、初めて出会った時の、ジャンボと呼ばれた彼が返事をしてくれたようだった。
物語は、続く。
140年後の今も、物語として生き続けている象のジャンボのそれが、教えてくれている。
忘れない。
永遠は、ある。