一度もアップをせずにベンチで座禅を組み目を閉じ、ネクストバッターズサークルにも行かず、自分の番を告げる場内アナウンスが流れた瞬間に目を開け立ち上がり、ゆっくりと侍が刀を構えるようにバットを持ち、打席に向う…
そんな日本人メジャーリーガーが現れるのを待っている。
物心ついた時からプロレスの、『嘘か本当かよく解らない世界』に惹かれ、
「アンドレは毎日ステーキ10枚食べるんやって!」
や
「ガチでやったらケンドーナガサキが一番強いらしい」
などという怪しげな話を友だちとして過ごした。
そんな”怪しげな話”も、総合格闘技という『リアル』の出現で、ハッキリせざる終えなくなった。
『リアル』の時代になった。
【白】と【黒】以外のものは中途半端とされ、間にある『よく解らないけれど』という数値化出来ない物事は、相手にされなくなった。
だけれど僕はあえて思う。
目の前に起こった『リアル』より、それ以外のところでさまよっている不確かなコトの方がおもしろいと。
そんな『不確かなコト』を僕は『ファンタジー』と呼び、自分で選んだサービス業の更に飲食という分野で毎日それを探している。
…居合い抜きのような構えで打席に立ち、その姿勢のままピクリとも動かずにやってくる球を待つ…
そんなファンタジーが、僕のいる場所にはある。
きっと。