その昔、訳あって、1年間ほど飲食業界から離れたことがある。
「お客さんに、会いたくない。」
が、原因だった。
お客さんの前から逃げ出した1年間。
2ヵ月も経たない間に、表情が無くなった(らしい)。
飲食業を離れて10ヶ月が経った時、家族で行った焼き鳥屋で、
「あんたの接客、また見てみたいわ」
と、母親にポツリと言われた瞬間、目が覚めた。
その夜、布団の中で一人、泣いた。
「お客さんに会いたい。」
本気でそう思った。
離れてしまったからこその覚悟みたいなものが、その時、小さな萌芽として、僕の心に現れた。
飲食業界を離れてちょうど1年後、行ったこともないお店の、一番下っ端のスタッフとして、お店に立った。
「いらっしゃいませ!」
初めて働くお店で、ルールも何もわからなかったけれど、入り口の扉が開いた瞬間、誰よりも大きな声で、僕は飛び出した。
「あの人、今日初めて働くのに、いきなりお客さん案内して…」
なんて陰口を言われても関係なく、ガンガン前に出た。
とにかく嬉しかった。
嬉しくて仕方がなかった。
お客さんに、会えた。
お客さんが、僕を待っていてくれたような気がした。
夜、家に帰ると、出迎えてくれた嫁さんが、
「なんか、嬉しそうやん」
と、僕に言った。…
自分で選び、育ててくれた飲食業界が、今、危機的な状況に置かれている。
飲食業の、”笑顔でいないといけない”という、長い時間、人前に顔を晒す仕事のおかげで、それが当たり前になった。
休業を選択し、「待て!」状態を余儀なくされている今、どうする事も出来ず、とにかく色んな角度で、飲食業界を応援することしか出来ていない。
「僕は今、どんな顔をしているんだろうか?」と、ふと思う。
見た目は中身を作り、笑顔は、笑顔の人を集めて、増やしていく。
幸せは、笑顔の場所にあって、飲食業は、そんな場所を作る、素晴らしい仕事だ。
「お客さんに、会いたい。」
あの日の萌芽は、今も、しっかりと僕の中で根付き、育っている。
STAY HOME?
違う。
STAY DREAM。
そう、Stay Stay Dream…