「演歌がえーわ!美空ひばり最高!」と、うっとり顔でいつもカセットデッキで演歌を聴いていたオカン。
ぼくの聴く音楽には、「そんなやかましい歌、何がえーねん!」といつも文句を言っていた。
ある日、ぼくが台所に入っていくと、オカンに声をかけられた。
「さっき、部屋で聴いとったの誰の歌?」
「ブルーハーツやけど、何?…」
「ふーん、あれ、えーやん。」
そう言って、オカンは買い物へ出かけた。
30年前のこのシーンを、なぜか鮮明に覚えている。どういう訳か、震えるほど嬉しかった。
部屋に戻り、買ったばかりのCDジャケットを眺めながら、もう一度聴いた。なぜか涙が出た。
自分の好きなものが、認められた。
それだけで、自分が認められたような気がした。
全く別の、価値観の楕円。それが広がり、一瞬ぼくの価値観に触れた。交わり、重なった、ほんの少しの部分。それは衝撃に似たような感覚で、心に響いた。
価値感なんか一緒じゃなくっていい。一緒なんか無理だ。近くなくてもいい。全く別の者同士でいい。
相手の関心に、関心をもったなら、それを言うだけだ。
もっと言うなら、それを偶然にするな。
それだけで、変わることが出来るし、変えることが出来る。
「ふーん、あれ、えーやん!」で。
…人は誰でも くじけそうになるもの ああ僕だって今だって
叫ばなければ やりきれない思いを ああ大切に捨てないで
人にやさしく してもらえないんだね
ぼくが言ってやる でっかい声で言ってやる ガンバレって言ってやる
聞こえるかい ガンバレ!…